“ファルメリアフォノス” – 四季のプラーニュ – ヘリオフラッソス

 胸の奥がざわめく。

 十七年。
 わらわがこの形を得てからの、歳月。

 ――それより前?
 あるわ、けれどただ思い出せるだけ。ヘリオフラッソスというソラの夢。
 それは夢でしかなく、カラの水瓶を覗きこんでいるみたいに、どこまでも近く、遠い。
 初めて目を開いた瞬間から、世界はすでに在って、陽は昇り、誰かが祈り、誰かが泣いていた。
 けれどその中に、わらわの名前はなかった。

 気づいたら、光がわらわを形づくっていた。
 腕の中には“孵化した卵”があり、それを抱いてそこに立っていた。
 目の前の同じ名で呼ばれる存在は、目を伏せどこかに行ってしまった。
 そうすることができたから様々な人間を領域に呼んだ。
 気紛れに恵みも与えたし、罰も与えた。
 そうしているうち、
 「ファルメリアフォノス」という音が、誰かの口からこぼれて、世界にひとつの居場所を与えた。
 その名がわらわを指したときに、はじめてこの世界にわらわの陽が差したわ。
 誰かの願いか、誰かの代償か、それはわからない。
 ただ、息継ぎのように生まれた。

 “彼”が首を傾げていた。
 “彼”は理を追う。
 けれど神というのは、理ではなく「隙間」から生まれるものだと、わらわは思う。
 誰かが信じなくなった瞬間、消えていく存在もあれば、誰も知らないうちに生まれる存在もある。
 わらわはいま、後者だった。

 ――影がひとつ空いた。
 眩しいほどの白に裂かれ、何かが崩れ落ち、代わりにわらわが立っていた。
 神格の記憶を覗き見、けれどそれより近い「誰か」の面影が、今も遠くで燃えている気がする。

 「わらわが生まれた時、ひとり消えたわ」
 そう口にして、胸の奥がひどく静かになった。
 それは後悔でも、悔恨でも、悲哀でも謝意でもない。ただ、事実。
 この世界は、光と共に影が喪われる道理すら捻じ曲がる。

 そう思うと、陽は少しだけ重たく感じる。
 それでも、呼ばれた限りは“照らさなければならない”。
 それが、我らの存在理由、のように思う。

 アトリウム・ソリスの冷たい瓦礫の上
 “彼”がまた、問いを携え、ここへ来るまで、